ファブレスメーカーとしては商標登録、特許出願など知的財産をどうすればよいのだろう?
今回はそんな悩みを解決します。
自社で製造工場を有さない。だから…
- 起業時・新規事業開始時の初期投資を低く抑えることができる。
- 経営資源を得意分野に集中できる。
このような特徴から短期に高収益化を目指すビジネスモデルとして注目されるファブレス経営。
半導体、デジタル機器、飲料品、インテリア、ファッション業界など多くの業界で採用され、実際、アップル、キーエンス、ダイドードリンコ、任天堂など、たくさんの有名企業がファブレス経営で高い収益があげています。
そんなファブレス経営ですが、ファブレスメーカーにおける知的財産活用のポイントが説明されることは多くないようです。
そこで今回はファブレス経営と知的財産活用のポイントについて説明します。
この記事を最後まで読んで頂くと、ファブレス経営とはなにか?から始まって、実際に著名なファブレスメーカーがどのように知的財産を活用しているのかイメージをつかんでいただけます。
ファブレス経営で高収益を目指す貴社の知的財産戦略の参考にしていただけると思います。ぜひ最後まで読んでみて下さい。
ファブレス経営については知識がある。ファブレスメーカーの知的財産活用のポイントだけ知りたいという方は、第3章「ファブレス経営での知的財産活用のポイント」にジャンプして下さい。
目次
1. ファブレスとは? ファブレス経営とはどのようなビジネスモデルか?
『ファブレス経営』とは、自社で生産設備・生産工場を持たない経営スタイル・ビジネスモデルです。
1.1 ファブレス経営でファブレスメーカー(委託元)が行うこと
つまりファブレスメーカーの主な業務は、マーケティング・企画・デザイン・設計・開発・販売・サービス、そしてこれら全体を通じたブランディングです。
実際の製品の生産はファウンドリと呼ばれる他社(製造会社)に委託・アウトソースします。
ちなみに『ファブレス』を英語で記載すると”Fabless”です。『製造』を意味する英単語は、”fablication(略してfab)”ですが、これを行わないのでFablessと表現されているようです。
1.2 ファブレスとOEMとの違い
ファブレスはOEMとよく似ています。ファブレスとOEMは、どれくらい設計・開発に関与するかが違うと考えられることが多いようです。
OEM:製品の企画・開発から製造までを委託先が実施。完成した製品に委託元のブランドを付して販売。
ファブレス:製品の企画・開発・販売は委託元が実施、製品の製造のみ委託先が実施。
2. ファブレス経営の特徴・メリット・デメリット
ファブレス経営の特徴は大きく2つあると言われています。
- ミニマムな初期投資
- 経営資源の集中
そしてこれら特徴に付随して以下のメリットが生じるとされています。
- 市場変化に柔軟に対応可能
- 自社の得意分野に注力可能
- 高付加価値商品・サービスの創出可能
一方、ファブレス経営のデメリットはこのような点にあると指摘されています。
- 情報漏えい、模倣品・類似製品の流通
- ノウハウ蓄積による品質向上・製造コスト低減が見込めないことも
以下、簡単に復習しておきます。
2.1 ファブレス経営は、ミニマムな初期投資で新規事業を開始可能(メリット)
ファブレス経営であれば自社工場を立ち上げる必要がないのでその分の設備投資を行う必要がありません。ミニマムな初期投資で新規事業を立ち上げることができます。
工場に大きな資金を投入しなくて済むので資金面での参入障壁は低く、その意味ではベンチャー企業・スタートアップ企業向けのビジネスモデルと言えます。
2.2 経営資源を集中できる(メリット)
工場を有さなないということは、工場運営のための固定費(設備維持費、人件費)が生じないことを意味します。経営資源・リソース(ヒューマンリソース、資金)を自社の得意分野に集中できます。
2.2.1 顧客にとって価値の高い製品を提供できる体制づくりが可能
マーケティング・企画・開発・デザインに強みを有する企業であれば、これら分野にリソースを注力することにより、顧客にとって価値の高い製品、独自性のある商品を生み出し提供できる体制を作ることができます。
2.2.2 マーケットニーズ・市場変化に迅速に対応可能
委託先を一社に限定する必要はありません。復数の委託先と提携しておくことにより、マーケットニーズに応じた商品の企画・販売が可能となります。商品バリエーションを増やすことも比較的容易です。
ニーズが存在しなくなった市場からは、いさぎよく撤退するという大胆な戦略も可能となります。商品の製造に自社の生産設備を使用しないので方向転換が容易です。
2.2.3 高い付加価値により収益性を上げることが可能
結果、高い付加価値を有する商品を創出することが可能となります。高い付加価値を有する製品は会社全体としての高収益性に通じます。
ファブレス企業キーエンスが日本一高い給料を誇っている理由はこのような高収益性にあるのかもしれません。
2.3 情報漏えい、模倣品・類似製品の流通(デメリット)
そしてファブレス経営のデメリットとして最初に考えられるのが技術情報の漏えい、模倣品・コピー品・類似商品の流通です。
商品の製造を委託するには技術情報を委託先に提供する必要があります。知的財産権(特許権など)で守られていない技術情報の漏洩はコントロールが非常に困難です。
また商品デザインが模倣されてしまう例もあります。
例えば、中国やアジア諸国の工場に製品の生産を委託していたら、ブランドロゴだけ取り除いたコピー品を委託先が販売していたなんて例は数多く見られます。
2.4 ノウハウ蓄積による品質向上・製造コスト低減が見込めないことも(デメリット)
自社製造であれば、製造の過程でさまざまなノウハウを得ることができます。
商品の品質向上に繋がるノウハウ・製造コストの低減に繋がるノウハウなどのさまざまなノウハウを蓄積することによってものづくり企業は利益を伸ばします。
しかしファブレス経営の場合、そのようなノウハウが蓄積されるのは製造依頼先のファウンドリ側です。
ファウンドリ側に蓄積されるノウハウは、必ずしもファブレスメーカーの利益につながらない可能性があります。
3. ファブレス経営での知的財産活用のポイント
このような特徴を有するファブレス経営ですが、ファブレス経営では特許権・商標権・意匠権といった知的財産権を取得し経営に活用していくことが極めて重要です。
ファブレス経営を成功させるには、これらの3つの対策が欠かせないからです。
- 低い参入障壁への対策
- 企画力・技術力・ブランド力を守る対策
- 情報漏えい・模倣品を防ぐ対策
以下、順番に説明していきます。
3.1 低い参入障壁への対策
上述したとおり、ファブレス経営は自社工場を有さないビジネスモデルです。生産工場を立ち上げる初期投資を抑えられるので参入障壁が低いと言えます。
これは裏を返せば、貴社以外の誰かがそのビジネスを開始する可能性も低くないということです。
後から参入してくる他社が同様のビジネスモデルで事業を開始できないようしっかりと知的財産権(特許権・商標権・意匠権)を取得したり、予め他社に対する差別化を図っておいたりすることが重要です。
技術力に強みを有する企業であれば特許権、デザイン性の高さで勝負する企業は意匠権、ブランド力を高めたいと考えている企業は商標権を戦略的に取得していく計画を立ておきましょう。
3.2 企画力・技術力・ブランド力を守る対策
そもそも企画力・開発力・技術力・ブランド力はファブレス企業にとっての生命線といえます。
自社で製造を行わないという戦略をとっているのですから、商品の魅力・価値を高めるコンセプト力・デザイン力・技術力、そしてその商品に満足してくれた顧客を惹きつけ続けるブランド力はファブレス企業にとって極めて重要です。
他社の参入を防止するという意味に加えて、このような生命線をしっかり守るという意味でも、特許権・意匠権・商標権を計画的に取得していくのは重要と言えます。
3.3 情報漏えい・模倣品を防ぐ対策
そして最後は、実際の情報漏えいや模倣品・コピー品を防ぐ対策です。
技術情報は、契約(守秘義務契約など)によってその漏洩を防止するだけでなく、実際に漏洩した場合、そして模倣品・侵害品が流通してしまった場合の事を想定し、法的措置を取れるよう対策を取っておくことが重要です。
具体的には特許権を取得しておけば、侵害品・模倣品にたいして差止請求や損害賠償請求といった措置を取ることができる可能性が高まります。
また、デザインやブランドを模倣され、模倣品・コピー品が流通することを想定して、意匠権・商標権を取得しておくことも極めて有効です。
特に商標権は、貴社が先に使用を開始していた商標について第三者が先に商標権を取得しまい、貴社が本来オリジナルであるはずの貴社製品を販売できなくなるなんて危険性もあるので計画的に取得を進める必要があります。
4. ファブレスメーカーが特許出願する際の注意点
ファブレスメーカーが特許出願を考えるときは、冒認出願・共同出願違反に注意してください。
冒認出願:特許を受ける権利を有していない者が特許出願をしてしまうこと。
共同出願違反:本来、共同で特許出願しなくてはならなかったのに単独で特許出願してしまうこと。
例えば、実際にはファウンドリ(製造委託先)の発明なのに、ファブレスメーカーが特許出願をしてしまうと冒認出願ということになります。
ファブレスメーカーとファウンドリが共同開発し、共同で発明をしたという場合に、ファブレスメーカーが単独で特許出願してしまうと共同出願違反ということになります。
いずれも特許を受けることができません。
このようなケースに該当しそうな場合は、すぐに専門家(特許事務所・弁理士)に相談するようにしてください。
「発明」がどのような場合に誰のもので、「特許を受ける権利」が誰に帰属するかという問題は複雑かつ重要な問題です。
専門家であれば、どのように特許を受けるのが貴社にとって最善であるか提案してくれるはずです。
5. ファブレス経営がさかんな業界別・著名ファブレス企業の知的財産活用状況
最後に、ファブレス経営がさかんな業界と著名ファブレスメーカーの知財活用の状況を紹介します。
4.1 半導体業界
著名なファブレスメーカー:Qualcomm、Broadcom、NVIDIA、AMD
Qualcommは日本でも多数の特許権を取得しています。
一般消費者の目に触れる機会の多い製品・ツール・システムも多く有しているNVIDIAは商標権獲得にも力を入れブランド力の強化を図っているようです。
4.2 デジタル機器
著名なファブレスメーカー:アップル、キーエンス、任天堂、エレコム
アップル・任天堂は、しばしば侵害訴訟のニュースが新聞・テレビを賑わしますが、多数の知的財産権を所有しているからこそですね。
日本一の高収益企業といわれるキーエンスは、保有する知的財産の価値も日本一と言われています。
エレコムは意匠権の獲得に力を入れている企業です。
4.3 飲料メーカー
著名なファブレスメーカー:ダイドードリンコ、伊藤園、レッドブル
ファブレスメーカーとして有名な飲料メーカーのダイドードリンコは、商品名を商標登録して他社に模倣されない対策に余念がありません。
またダイドードリンコの特許出願の状況を詳しくみてみると、他社との共同で出願しているケースが多いようです。ファウンドリ(製品製造委託先)との共同出願でしょうか。
4.4 インテリアメーカー
著名なファブレスメーカー:サンゲツ、無印良品、IKEA
インテリアメーカーのサンゲツは、自社製品であるカーテンの技術を守るために特許権、カーペットの柄を守るために意匠権の取得に積極的です。
また製品名をしっかりと商標登録して模倣対策・ブランド力構築に力を入れています。
無印良品(株式会社良品計画)は、自社製品のデザインを守るために意匠権を、「MUJI」や「Idee」といったブランド名、「足なり直角」といった商品名を保護するために商標権を取得しています。
5. まとめ
今回は、ファブレス経営と知的財産の活用について説明しました。
ファブレス経営は、自社で製造工場を有さないビジネスモデルです。このような特徴を有しています。
- ミニマムな初期投資
- 経営資源の集中
そしてこれら特徴に起因して、このような経営上のメリットが有ります。
- 市場変化に柔軟に対応可能
- 自社の得意分野に注力可能
- 高付加価値商品・サービスの創出可能
一方でファブレス経営には、こんなデメリットもあります。
- 情報漏えい・模倣品・類似製品の流通
- ノウハウ蓄積による品質向上・製造コスト低減が見込めないことも
これらの点を踏まえると、ファブレス経営では特許権・意匠権・商標権といった知的財産を積極的に活用していくことが重要です。
- 低い参入障壁への対策
- 企画力・技術力・ブランド力を守る対策
- 情報漏えい・模倣品を防ぐ対策
効果的にこれらの対策を講じる必要があるからです。
自社工場に投資しない分、しっかりと知的財産に投資し、自社の企画力・コンセプト力・デザイン力・技術力・ブランド力を守っていくことがファブレス経営成功の秘訣と言えそうです。
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