一度特許を取得すると、何年間有効かご存知でしょうか?
特許権の存続期間は原則として出願から20年で終了します。
とはいえ、この存続期間は例外的な場合には延長することができますし、20年を待たずして消滅してしまう特許も多数存在します。
そこでこの記事では特許の存続期間が20年であるという原則と、それら例外について説明します。
この記事を読んで頂くことで特許権の存続期間について正しく理解できます。
- いつ特許を取得すべきか?
- 有効期限があるのならできだけ遅いタイミングで出願したほうが良い?
- 製品発売のタイミングに合わせて特許出願を遅らせるべき?
なんて悩みも必ず解決できますので、ぜひ最後まで読んでみて下さい。
目次
1. 特許権の存続期間は原則20年で終了
特許権の存続期間は原則として特許出願から20年で終了します。
参考:特許法第67条第1項
「特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。」
注意してほしいのは「特許出願の日」から20年で終了するという部分です。
ちなみに特許権が発生するのは、設定登録後です。
参考:特許法第66条第1項
「特許権は、設定の登録により発生する。」
特許権の設定登録というのは、特許庁にある登録原簿といわれる原簿に特許権が登録されることだと思って下さい。
特許査定後に特許料を支払うと、そのような設定登録がなされます。
特許を出願してから特許査定、実際に特許権が設定登録されるまで通常1年を超える期間(平均14.3ヶ月といわれています)が必要ですから、実際に特許権が存在しているのは最長でもだいたい19年くらいということですね。
2. 特許権の存続期間が出願から20年を超えるケース
ただし例外が2つあります。
- 薬機法(旧薬事法)などの規定による例外
- 特許権の設定登録が著しく遅れた場合の例外
2.1 薬機法(旧薬事法)の規定による例外
医薬品など一部の発明については、特許権の存続期間が出願から20年を越えても終了しないよう「延長登録申請」という申請をすることができます。
医薬品等は、製品を市場に出すために安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可を受ける必要があります。
それには所定の試験・審査(臨床試験など)にパスする必要があり、実際の製造承認を得るまで相応の期間が経過してしまいます(医薬品の開発には10年~15年くらいかかるなんて言われています)。
そのような臨床試験等のために特許発明を実施できない期間があると、せっかく取得した特許ですがその間は「市場の独占性」というメリットを享受できません。
これを回復するためにこのような存続期間の延長登録制度が設けられています。
出典:産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会
第8回 審査基準専門委員会ワーキンググループ配布資料3
特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準の点検・改訂について(PDF:318KB)
延長できる期間は最長5年です。
延長するための条件は、薬機法などの規定による許可を受けるために、その特許発明を実施することができなかった期間が2年以上あったことなどです。
延長登録申請をするには、「延長登録の出願」という出願をする必要があります。
参照:特許法第67条第2項
特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることが二年以上できなかつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
2.2 特許権の設定登録が遅れた場合の例外
特許権の存続期間が出願から20年を越えても終了しないもう一つの例外は、審査が著しく遅延した場合の例外です。
特許権の設定登録が、想定される一定の期間を超えた時期にされた場合には、存続期間を延長する手続きを取ることができます。
特許権に基づく差止請求や損害賠償請求といた権利行使は、特許権の設定登録がなされた後にしかすることができません。
審査が著しく遅延すると、特許権者にとっては権利行使が可能となる期間が短くなり不利益となってしまいます。
このような不利益を補償するため、審査が不当に遅延した場合にも延長登録申請をすることができることとなっています。
出典:産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第13回 審査基準専門委員会ワーキンググループ配布資料1 特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準の改訂について(PDF:573KB)
延長されるための条件は:
特許出願の日から起算して5年を経過した日、又は、出願審査の請求があった日から起算して3年を経過した日
これらのいずれか遅い日以後に特許権の設定の登録があった場合です。
延長できる期間は、上図のAの期間です。
例えば、特許出願と同時に審査請求をし、出願から5年6ヶ月後に特許権が設定登録されたとしたら、Aの期間は6ヶ月ということになるので、その6ヶ月分の延長Bを求めることができます。
ミニコラム
このような審査遅延による存続期間延長の例外は、日本がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に加盟したことにより、「環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」という法律が整備された結果、設けられました。
TPP11協定では、加盟国は、特許を付与する際に不合理な遅延が生じた場合、当該期間補償のための特許権の存続期間の延長制度を設けなければならない旨、義務づけられています。
このように条約に加盟するために国内法(特許法)が整備されるというのは珍しいことではありません。
3. 特許権の存続期間が20年に満たないケース
特許権の存続期間が、特許出願の日から20年を待たずに終了するケースも存在します。
- 特許料未納により特許権消滅
- 特許権放棄による特許権抹消
- 無効審判・異議申立などにより特許権が消滅
3.1 特許料未納による特許権消滅
特許権の存続期間が、特許出願の日から20年を待たずに終了する最初のケースは、特許料を支払わなかったときです。
特許権というのは、特許庁への特許料の支払いを条件とした権利です(特許法第112条)。
例えば、最初の特許料(第1年目~第3年目の分の特許料)は、特許査定後30日以内に支払います。
第4年目以降の分の特許料は、前年の末日(例えば4年目の特許料は3年目の末日)以前に支払います。
このようなタイミングで特許料を支払わなければ特許権は消滅します。
逆に言うと特許権者は、特許を維持する必要がなくなった場合(製品販売の予定がなくなった場合など)、特許料を支払わないという判断をすることができるわけです。
ミニコラム
特許庁は、特許料の支払い期限を通知してきてはくれません。うっかり特許権を消滅させてしまったなどということが無いよう、特許事務所などに特許料の支払期限管理を依頼するのが通常です。
3.2 特許権放棄による権利抹消登録
特許権者は、特許権を放棄することもできます。
特許権者が特許権を放棄すると、特許権の存続期間は特許出願の日から20年を待たずに終了します。
特許権は財産権と考えられており特許権者にはそれを処分する自由があるのです。
特許権を放棄するには、「放棄による権利抹消登録申請書」という書類を特許庁に提出します。
出典:特許庁 「放棄による権利抹消登録申請書」より
特許料未納と特許権放棄の違い
特許権が消滅するタイミングが違います。
特許料未納の場合は、特許料納付期限経過後に特許権は消滅します。
権利抹消登録を行うと、特許料納付期限をまたずに特許権を抹消することができます。
3.3 無効審判・異議申立などにより特許権が消滅
特許権の存続期間が、特許出願の日から20年を待たずに終了する最後のケースは、「無効審判」、「特許異議の申立」を請求されて特許権が消滅してしまうケースです。
無効審判、特許異議の申立というのは、第三者が特許権を消滅させる手続きです。
自社の製品の販売を妨げる他社の特許権(競合他社の特許権)を発見した場合などに、このような無効審判や特許異議の申立という手続きを取り、他社の特許権を消滅させようと試みられることがあります。
無効審判を行うには、特許庁に「無効審判請求書」を提出します。
特許異議の申立てを行うには、特許庁に「特許異議申立書」を提出します。
これらの書類が提出されると、特許庁はその特許権の有効性を再度確認するための判断手続きを開始します。
判断の結果、特許は無効である(無効審決)とか、特許は取り消されるべきである(取消決定)との判断が確定すると、特許権は初めから存在しなかったことになります。
特許法第114条
3 取消決定が確定したときは、その特許権は、初めから存在しなかったものとみなす。
特許法第125条
特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は、初めから存在しなかったものとみなす。
ミニコラム
実際、統計(特許行政年次報告書)をみても、20年間を待たずして消滅する特許権は数多く存在します。下のグラフは年ごとの特許権の現存率(特許料が支払われ、特許権が維持されている特許の割合)を表したグラフです。登録から年数が経過するとともに特許権の現存率は下がっています。
4. 特許権の存続期間に関するよくある質問とその答え
このように特許権の存続期間は、原則的には特許出願から20年で終了し、例外的には延長登録されたり、中には20年を待たずして消滅したりするものもありますが、そんな特許権の存続期間に関して弊所には様々な質問・疑問が寄せられます。
そこでこの章では、特許権の存続期間にまつわる疑問にお答えしていきます。
4.1 特許権が存続している間に、第三者がやって良いこと・やってはいけないことはありますか?
第三者は特許権の存続期間中には、当該特許発明を実施してはいけません。
特許法に従い、特許権者だけが特許を受けた発明を使うことができます。
参考:特許法第68条
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。
もし第三者が特許発明を実施してしまうと(特許された技術を使ってしまうと)、特許権侵害となり差止請求(特許法第100条)や損害賠償請求(民法709条)の対象となるからです。
もしその特許技術を使用したい場合は、第三者としてはライセンスを受けることを検討したり、場合によっては無効審判、特許異議の申立といった手続きを使って、特許権の消滅をはかることを検討したりすることとなります。
自社の製品の仕様を変更し、特許権侵害とならないよう設計を変更することを検討することもあります。
第三者は自社の製品に特許表示を付すこともできません。(「特許表示」が何かという点は、次の質問で詳しく説明しています。)
もし特許権を有さない第三者が自社の製品に特許表示(特許取得済み等)を付してしまうと、虚偽表示といって、刑事罰の対象となります。
虚偽行為を行った人は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人の場合、1億円以下の罰金です。
参考:(虚偽表示の罪) 第198条
第188条の規定に違反した者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
(両罰規定)
第201条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第196条、第196条の2又は前条第1項 3億円以下の罰金刑
二 第197条又は第198条 1億円以下の罰金刑
4.2 特許権が存続している間に、特許権者ができること・できないことはありますか?
特許権者は、特許された技術(特許発明)を独占的に使用することができます。
第三者が、特許発明を実施しているのを発見した場合、差止請求権(特許法第100条)や損害賠償請求権(民法第709条)を行使することができます。
差止請求権というのは、第三者に模倣を「ヤメロ」と言う権利です。
損害賠償請求権というのは、模倣によって被った損害を「返せ」という権利です。
これらの権利については、記事「特許のメリット|特許出願をするか判断するために知るべき全ての知識」で、詳しく説明していますので、ぜひ読んで見て下さい。
また、特許発明を含む製品に「特許表示」といわれる表示を付すことができます。
参考:特許法 第187条(特許表示)
第187条 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、通商産業省令で定めるところにより、物の特許発明におけるその物若しくは物を生産する方法の特許発明におけるその方法により生産した物(以下「特許に係る物」という。)又はその物の包装にその物又は方法の発明が特許に係る旨の表示(以下「特許表示」という。)を附するように努めなければならない。
この「特許表示」の付し方は、特許法施行規則で定められており、例えば以下のように定記載します。
特許表示の記載例:「特許第*****号」、「方法特許第*****号」
参考:特許法特許法施行規則
(特許表示)
第68条 特許法第187条の特許表示は、物の特許発明にあっては「特許」の文字およびその特許番号とし、物を生産する方法の特許発明にあっては「方法特許」の文字およびその特許番号とする。
正式にはこのように記載する特許表示ですが、「特許取得済み」、「特許出願中」、「特許申請済み」、「Pat.」などの表示も多く用いられているようです。
医薬品等の場合、厚生労働省医薬・生活衛生局の基準(医薬品等適正広告基準)により、その製造方法についてその優秀性について事実に反する認識を得させるおそれのある表現をしてはならない事となっています。
また医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない事ともなっています。
特許表示は、これらの基準に反するものとされていますので、原則として特許表示を付すことはできません。
参考:「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」 厚生労働省医薬・生活衛生局
4.3 特許権の存続期間が満了した後に、第三者がやって良いこと・やってはいけないことはありますか?
特許権の存続期間が満了した後は、第三者もその技術を使うことができます。
特許権の存続期間の満了後に、特許表示とまぎらわしい表示を付してはいけません。
例:「特許アイデア商品」など、未だ特許権が存続しているかのような認識を与える表示。
4.4 特許権の存続期間が満了した後に、元特許権者ができることはありますか?
元特許権者は、もちろんその技術を使い続けることができます。
ただし存続期間が満了した後に、再申請(再び特許出願をする)をし、再度特許を取得するといったことはできません。
既に新規性が失われており、絶対に特許を取得することができないからです。
ですので、特許権によって市場を独占し続けるということは不可能です。
特許権の存続期間後のことを想定し、商標権を取得、強いブランドを造って顧客吸引力を発揮させておくことが重要です。
5. 結局いつ特許を取れば良いのか?
新しい技術アイデア・ビジネスモデルを発明したら、できるだけ早期に特許出願をするのがベストです。
特許には存続期間、つまり有効期限があるので、製品の発売がもう少し先なんて場合は、製品販売に合わせてできるだけ遅く出願したほうが有利なのでは?なんて考えるかもしれませんが、出願時期を遅らせるのはおすすめできません。
特許を受けることができなくなる可能性(リスク)が上がるからです。
例えば、貴社が特許出願を躊躇している間に、他社によって同じ発明に対して出願がなされた場合、貴社は特許を受けることができません。
他社による特許出願がなされないまでも、類似した技術が公開されるほど、貴社の発明が特許される可能性は下がっていきます。
類似された技術が多く公開されればされるほど、それは審査官の目には貴社の技術にたどり着くルートが増える、つまり進歩性が無いと映るからです。
もし特許を取得するなら、発明が完成したらすぐに特許事務所・弁理士等に相談し、特許出願するのがベストです。
ミニコラム
特許出願をするのに発明が製品化されている必要はありません。
特許法上は、「発明」の完成と「製品」の完成は別物と考えられています。
特許法上は、発明は技術的思想の創作、つまり技術的アイデアと定義されています。頭の中でアイデアベースで発明が完成していれば、製品化されていなくても問題ありません。
参考:特許法 第2条(定義)
1 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した「技術的思想の創作」のうち高度のものをいう。
6. まとめ
今回は、特許の存続期間について説明しました。
原則として特許権は、設定登録によって発生し特許出願から20年をもって消滅します。
ただし、特許権の存続期間の終期は、特別な場合には例外的に延長されることがあります。
20年をまたず消滅する特許も多数あります。
特許権が切れた後、再度特許取得することはできませんが、特許権と合わせて商標権を取得しておき、特許権の存続期間中に製品ブランディングをしっかり行っておくということは可能です。
もし特許取得を検討しているのなら、できるだけ先まで特許権を残しておきたいからと特許出願を遅らせてはいけません。
他社に特許を取得されたり、貴社が特許を取得できなかったりするリスクが上昇してしまうかもしれないからです。
重要なことは、特許出願は発明さえ完成していれば製品の完成を待たずにすることができるということ。
すでに発明が完成している場合、特許を取得すべきか?という検討はできるだけ早期に完了させましょう。
検討のために重要な情報をまとめた記事を用意していますので参照してください。
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