「商標登録したいのだけど登録までどれくらいの期間が必要となるのだろう?」
この記事では、こんな疑問を解決いたします。
特に商標登録までの期間のうち、一番重要と考えられる商標の審査に必要となる期間を説明します。
結論から言うと商標登録のための審査期間は平均約12ヶ月です。
ただ、このような審査期間を短縮する方法(ファストトラック審査、早期審査)もあるので合わせて紹介いたします。
また、商標登録までの期間が延びてしまう要因もいくつか存在するので合わせて説明します。
この記事を最後まで読んでいただくことで、少しでも早く商標登録するにはどうしたらよいか理解していただけると思います。
ぜひ最後まで読んでみて下さい。
目次
1. 通常の商標登録出願の審査に必要な期間
冒頭に記載しましたが、商標登録出願を行った場合、通常ですと平均約12ヶ月の審査期間が必要となります。
下の表は、特許庁が公表している「商標審査着手状況(審査未着手案件)」というデータです。
このデータによると、例えば「化学」という審査室で審査を受ける場合、審査着手までに目安として12ヶ月から14ヶ月の期間が必要ということがわかります。
「雑貨繊維」という審査室で審査を受ける場合、9ヶ月から11ヶ月と比較的短い期間で審査に着手されることがわかります。
これら期間の平均が先程記載した約12ヶ月です。
ちなみにどの審査室で審査を受けるかは、出願時に指定した「区分」によって決まるので、自社のサービス・商品がどの区分に属するか選べる方は、関連する区分の審査室のデータを参照すればより精度よく審査期間を見積もることができます。
2. 早期審査|審査期間を約1.7ヶ月まで大幅に短縮する方法
12ヶ月も待ちきれないという方のために、早期審査という制度があります。
2.1 早期審査を申請した場合の審査期間
早期審査を申請すると、審査期間を平均1.7ヶ月まで大幅短縮できます。
2.2 早期審査の対象となるための条件
早期審査は、審査期間を大幅に短縮できるのがメリットですが、早期審査の対象となるには所定の条件を満たす必要があります。
引用元:「商標早期審査・早期審理ガイドライン」(特許庁)
具体的な条件として、上図に記載されている対象1~対象3のどれかに該当する必要があります。
基本となる前提条件は、「商標を既に使用していること」です。
対象1は、主に第三者と争っていたり、ライセンス交渉したりしている人を想定しています。
既存の商品・サービスを取り扱う事業者は、対象3の条件に該当するように商品・役務を「類似商品・役務等審査基準」等に掲載の商品・役務のみを指定するようにすると良いです。
これまで市場に存在しない新たなサービス・プロダクトを取り扱う事業者(スタートアップ企業・ベンチャー企業等)の場合、商品・役務を「類似商品・役務等審査基準」等に掲載の商品・役務のみを指定するということが不可能です。
そこで、対象2に該当するよう、全ての指定商品・指定役務について商標を既に使用している状態(ウェブサイト等で商標を使用して販売しているなど)となっている必要があります。
2.3 早期審査を申請するための手続き
早期審査を受けるには、通常の商標登録出願に加えて、早期審査の申請手続きを行う必要があります。
実際には「早期審査に関する事情説明書」という書類を提出します。
この書類の中で、さきほど説明した早期審査の条件として定められている対象1から対象3に該当する旨を説明します。
具体的な「早期審査に関する事情説明書」の作成方法は、特許庁が公表している「商標早期審査・早期審理ガイドライン」に詳細に説明されているので参考にしてください。
参考:「商標早期審査・早期審理ガイドライン」(特許庁)
2.4 早期審査を申請するための費用
早期審査の申請の際、特許庁に追加の費用を支払う必要はありません。
「早期審査に関する事情説明書」を作成するにあたり専門家(弁理士)のサポートを受けた場合、サポートのための手数料(コンサルティング費用、書類作成手数料等、通常数万円程度)を専門家(弁理士)に別途支払う必要があります。
3. ファストトラック審査|審査期間を6ヶ月まで簡単に短縮する方法
早期審査は手続が大変そうとか、追加の費用が発生するのは嫌だという方のためには、「ファストトラック審査」という制度があります。
商標登録出願のうち所定の条件を満たす案件は「ファストトラック案件」と呼ばれ、他に特別な手続きを行わなくても審査期間が短縮されます。
3.1 ファストトラック案件で短縮される期間
引用元:「ファストトラック審査」(特許庁)
短縮される期間は6ヶ月です。つまり出願から約6ヶ月後には審査結果を知ることができます。
3.2 ファストトラック案件となるための条件
このようなファストトラック審査の対象となるためには以下の条件が満たされる必要があります。
- 出願時に、特許庁が規定する「類似商品・役務等審査基準」等に掲載の商品・役務のみを指定商品・指定役務として指定している。
- 出願後に、指定商品・指定役務を変更(補正)していない。
この2つの条件が満たされている商標登録出願は、特許庁により自動的にファストトラック案件に振り分けられ、ファストトラック審査を受けることができます。
出願時に注意して特許庁の言う通りに指定商品・指定役務を記載しさえすれば、追加の書類等を提出しなくても審査期間を短縮することができるのでとても使い勝手のよい制度です。
もちろん追加費用も必要ありません。
3.3 ファストトラック審査を受けることができない人
これまで市場に存在しないような斬新なサービス・プロダクトに対して商標登録したいスタートアップ企業・ベンチャー企業の中には自社のサービス・プロダクトを適切に表す商品・役務が、「類似商品・役務等審査基準」等に見つからないということが考えられます。
この場合、ファストトラック審査を受けることができません。上述した早期審査を検討することとなります。
4. 商標登録までの期間が延びる要因
このように通常であれば平均12ヶ月、早期審査であれば平均1.7ヶ月、ファストトラック審査であれば平均6ヶ月といった審査期間が必要となる商標登録ですが、登録までの期間が延びる要因も存在します。
そこでこの章では、商標登録までの期間が延びる要因を説明します。
4.1 出願書類の記載ミス・記載漏れ
出願書類に記載ミス・記載漏れがあると、「方式審査」とよばれる審査をパスできず、特許庁から修正を求められることとなります。
出願書類を修正する必要ができた場合、1ヶ月程度、商標登録までの期間が延びると考えられます。
出願書類を丁寧に作成することで、無駄な期間を発生させないようにするのが早期に商標登録するコツです。
4.2 拒絶理由通知
出願を行い審査の過程で、商標登録できない理由が見つかると「拒絶理由通知」といわれる書類が送付されてきます。
「拒絶理由通知」が送られてきても、意見書・手続補正書を提出するなどして適切に反論すれば商標登録への途が絶たれるわけではないのですが、反論を作成し提出するための期間(1ヶ月程度)、反論をふまえた審査官による再審査の期間(1ヶ月程度)の分だけ(合計2ヶ月程度)、商標登録までの期間は延びます。
事前に行う先行商標調査の精度を上げることにより、拒絶理由通知を受ける可能性を下げることが可能です。
場合によっては専門家(弁理士)に先行商標調査を依頼することなどを検討しましょう。
4.3 拒絶査定
拒絶理由通知に対して適切に反論できないと「拒絶査定」と呼ばれる査定を受けることとなります。
これは審査官による審査を合格できなかったという査定です。
拒絶査定を受けてしまった商標をあきらめきれない場合、拒絶査定不服審判という審判手続きを請求することで商標登録を受けることができる場合がありますが、当然追加の費用と期間が必要となります。
拒絶査定不服審判には、数ヶ月から年単位の期間が必要となります。
4.4 拒絶審決
拒絶査定不服審判を請求してもなお商標登録を受けることができないと判断されると「拒絶審決」という審決を受けることとなります。
審決というのは、特許庁によるいわば最終判断です。「拒絶審決」を受けるということは、特許庁がその商標は登録を受けることができないと最終判断したことを意味します。
それでもなお商標登録をあきらめきれない場合、裁判所(知財高裁)に対して、「特許庁の判断はおかしい」と訴えを提起することになります。
このような訴訟を審決取消訴訟と言います。
審決取消訴訟には、通常、年単位の期間と高額な訴訟費用が必要となります。
4.5 全体としての商標登録出願数の増加
ここまでは単独の商標登録出願として商標登録までの期間が延びる要因を見てきましたが、実は、特許庁に出願される商標登録出願数の増加も審査期間に大きく影響します。
引用元:「特許行政年次報告書2020年版」(特許庁)
上のグラフは、特許庁が毎年公表する「特許行政年次報告書」と言われる報告書からの引用ですが、商標登録出願数が増えるに従い(1-1-77図)、商標の審査期間が延びていることがわかります(1-1-80図)。
商標登録出願の数量はここ数年増加傾向が続いていますので、早期に商標登録出願をすることが商標登録までの期間を短縮することにも通じると言えそうです。
5. まとめ
この記事では、商標登録までに必要な期間、特に商標登録の審査に必要な期間について説明しました。
審査に必要な期間は、審査の種類によって異なります。
- 通常の審査:平均12ヶ月
- 早期審査:平均1.7ヶ月
- ファストトラック審査:平均6ヶ月
早期に商標登録したい人は、早期審査かファストトラック審査の活用を検討しましょう。
その際、早期審査とファストトラック審査は、受けられる条件・手続きが異なるので自社にあった手続きを選ぶようにすると良いです。
審査期間を大幅に短縮したい人には早期審査が一番お勧めできます。
早期審査の申請手続きは若干複雑なので専門家(弁理士)のサポートを受けると確実かつ早期に商標登録を受けることができます。
そこまで早期に登録にならなくても大丈夫だから手続きがシンプルな方が良いという方にはファストトラック審査がお勧めです。
出願の際に、指定商品・指定役務を注意して記載するだけで審査期間を半分に短縮できます。追加費用も必要ありません。
早期審査・ファストトラック審査を活用しつつ、商標登録までの期間が延びる要因をできるだけ排除するのが早期に商標登録を受けるコツです。
ぜひ参考にしてください。
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